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45話 息のあわいに
Last Updated:
2025-12-09 17:02:06夜は静かに沈み、洞の奥で火がかすかに揺れていた。瑞礼はその光の前に座った。指先をかざすと、焔の熱がゆるやかに肌を撫でていく。
昼の間、湖の上を覆っていた霧は消え、かわりに深い寒気が満ちている。外の世界は変わらず遠く、ただこの火の息だけが、ふたりを繋ぐ唯一のもののようだった。
緋宮は対面の岩に背をあずけて座っていた。長い沈黙のなかでふと目が合う。焔がその瞳を照らし、金紅の光が静かに揺れている。
「……今夜は、いつもより風が鳴りますね」
瑞礼の声は囁きに近かった。
「冬が深まる。山が眠りに入るころだ」
「この淵も……凍るのでしょうか」
「凍る。けれど、すべてが止まるわけではない。水の奥では息が続いている」
緋宮の言葉は静かで、どこか遠くのことを話すようだった。
瑞礼はその声音を聞きながら、胸の奥に小さな痛みを覚えた。
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